もし仮に、百井くんが夏休みも学校で絵を描き続けるつもりなんだとしても、部活動に励む生徒たちの声を聞きながらひとり黙々と作業するなんて、そんな切ないことは、わたしがしてほしくなかったから。
だから、どうしても気になっても、旧校舎の美術室に様子を確かめに行くことはしなかった。
でも、百井くんが寂し思いや切ない思いをしていないといいなと。
それだけはいつも思いながら、帰り際、旧校舎に目を向けて家に帰った。
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そうして、半ば暗示的に〝百井くんは友だち〟と自分に言い聞かせて登校した、夏期講習前半。
日頃の暗示が功を奏したのか、久しぶりに顔を見ても特にドキドキもキュンも胸が苦しくなることもなかったわたしは、午前中で終わった講習のあと、いつの間にか教室からふらりと消えていた百井くんを追って、数週間ぶりに旧校舎の美術室を訪れた。
そのまま部活に行く生徒も多いようで、校舎は夏休み中とは思えないほど賑やかだ。
けれど、この旧校舎だけは相も変わらずひっそりとしていて、その変わらない雰囲気が、なんだかすごく落ち着く。
「百井くん、久しぶりー」
「おうニナ、しばらく見ないうちに太ったか」


