そのときは、亜湖の顔を見にテニス部に寄ったり、生徒会会長と副会長でもある、部長の悠仁先輩と副部長の佐々木先輩、元テニス部部長の美遥先輩に会いに写真部に顔を出したり。
3人とも受験生なのにこんなにのんびりしていていいのかな、と心配になったりしながらも、相変わらず自分の彼氏である悠仁先輩を熱いまなざしで見つめる美遥先輩と他愛ない話をしたりもした。
けれど、あそこ――旧校舎の美術室には、けして寄り付かなかった。
〝前向きな気持ちで終われた素敵な失恋〟にするために意識して近づかないようにしていたのもあるけれど、そもそも、百井くんが夏休みも一人で活動するのか、しないのか、わたしは知らない。
学校に来ると、新校舎の美術室の窓が全開になっているのを見かけるから、ほかの部員は夏休みも普通に活動していることはわかっていた。
だけど、百井くんは諸事情あってひとりで活動していて、それにもうコンクールに作品を出すことはできない。
そうなると、わざわざ学校に来て絵を描くよりは、家に持ち帰って描くほうが彼らしい気もするし、きっとひとりきりの美術室は寂しい。


