無理だったんだと諦めることにした恋心を百井くんに重ねているだけだって、自分でもわかっている。

でも、今の本音としては、そうでもしないと、わたしが報われないから……。

苦しい言い訳だろうけど、もうしばらくは――本心から百井くんのことを「友達」だと言えるようになるまでは、そうやって自分の想いを彼の想いに重ねさせてもらえたら、嬉しいし安心する。


「……うーん、仁菜は百井のことをよく見てる、ってことなのかなぁ」

「ん?」


ぽつりと落とされた亜湖のつぶやきに、物思いにふけっていた顔を上げて彼女を見る。

わたしの視線を感じたのか、梅雨が明けてまたたく間に夏の色が濃くなった空を見上げていた顔をこちらに向けた亜湖は、


「あたしには百井の顔は相変わらず、仏頂面か、怒った顔か、ガンを飛ばしてるかの顔面三原則しかないように見えるけど、きっと仁菜にはもっと別の顔も見せてるから、仁菜はそう思うわけでしょ? 逆に言えば、仁菜だから見せられる顔があるっていうことでもあると思うし、もしかしたら、懐いてるのは仁菜のほうじゃなくて百井のほうかもしれないよね」


そう言って笑う。