「にーな、帰ろー?」


誰とも群れることなくさっさと帰ってしまった百井くんの席にぼんやりと目を落としていると、肩をぽんと叩かれ、はっと我に返った。

見ると、相変わらずほどよく日焼けした亜湖が健康的な笑顔をこちらに向けていて、わたしも急いで笑顔を返す。


「あ、うん。亜湖、部活は?」

「今日は休み」

「テニス部の子たちと一緒に帰らなくてよかったの?」

「いっつも一緒に帰ってるもん、部活が休みの日くらい、仁菜と帰りたいじゃん」


夏休みの課題プリントで膨らんだスクールバッグを肩に掛けながら尋ねれば、亜湖からは思わず頬が緩むような返事が当たり前に返ってくる。

そんな彼女に、ふへへ、と空気が抜けたような笑い声をもらしながら、毒舌だけどやっぱり好きだなぁと思う。

失恋とまたカメラを始めたことをきっかけに百井くんとの間に今まであったことを洗いざらい話したときも、黙っていられたことを怒るわけでも悲しむわけでもなく、ただ「そうだったんだね」と相づちを打って聞いてくれて。

「……でも、あんたはそれでいいの?」と、まるで自分のことのように心配もしてくれた亜湖は、今も大きな心の支えになっている。