「あ、でも、肉は譲らねーからな」

「えー? 焼き肉ならお肉食べなきゃ意味ないじゃん」

「うっせーなー。ちっとはダイエットしろよ」

「なっ。前も言ったけど、これでもしてるよ! ほんっと百井くんってデリカシーないよね!」


先に階段を下りていく百井くんにトタトタと付いていきながら、いつかもやった会話を繰り広げる。

実結先輩と扱いが違っても。

わたしには入り込む隙もないくらいの先輩後輩としての時間があったとしても。

たとえ百井くんにとって、わたしはこの先もずっと〝ヒーローで恩人〟でしかないのだとしても。


「……写真、またはじめてみようかな」

「おう、それがいい」


本当に小さな声でしかつぶやかなかったわたしの声を当たり前に拾って、そう言って百井くんが自分のことのようにうれしそうに笑ってくれたから、それだけで、もう十分、わたしの想いは報われたんじゃないかと思う。

もし本当に写真をはじめたときは、今度はそこに自分の〝想い〟も乗せてシャッターを切ってみるのも、いいかもしれない。

そのときは、一番に百井くんに見せて。

そしてまた実結先輩に教えてもらった水彩画で再現してもらえたら。


そしたらきっと、わたしはずっと、百井くんの友だちでいられる――。