「ニナは母さんにもヒーローで恩人だ。じゃなかったら、高校に行こうなんて思わなかったかもしれないし、もし高校に行っても、まともな高校生活を送れたかもわかんない。ニナの写真に出会わなかったら、母さんも今、あんなふうに明るくなかったかもしれない」
「……そっか」
「おう。だから、せめてもの恩返しに超食ってけ」
「ふはは、わかった。超食ってく」
荒れていた時期を知っているから、ただ心配だっただけ――そうか、お母さんはそういう百井くんと常に一緒にいて、わたしなんかでは絶対に推し量れないほどの気持ちを抱えていたんだ。
わたしの写真に出会って、百井くんが変わって。
変わった百井くんを見て、お母さんも変わって。
百井くんにとってのわたしがヒーローで恩人であるように、お母さんにとってもわたしは……。
「オラ、行くぞ」
「あ、うん」
立ち上がった百井くんに急かされ、わたしも椅子から腰を上げる。
写真には悪い思い出ばかりしかないと思っていたけど、本当はわたしが見落としていただけなのかな。
ドアに手をかけた百井くんの大きくて広い背中に、ふと、そんなことを思う。


