「いや、本当なんですってば! わたしがどうして百井くんのヒーローなのかを聞いて思わずうるっときちゃっただけなんです……!」
その場は一時、騒然とし、わたしは慌てふためきながらお母さんに百井くんの潔白を訴えた。
というか、百井くんの絵で泣けるわけない、って……。
この場はこう言うしかなかったというのもあるんだろうけど、お母さんもなかなかシュールだな。
頭頂部を押さえながら不満げに眉をしかめる百井くんが、なんだかちょっと、かわいそうだ。
「……本当になにもされてないのね?」
「もちろんです! わたしが撮った写真を再現してくれた絵を見ていただけです。美術部に入ったばかりの、中学生の頃の。……あの写真、想いなんてひとつも込めていなかったのに、それでも百井くんは、わたしのことをヒーローだって言ってくれて。うれしいのに申し訳ないっていうか、急に胸がいっぱいになってしまって……」
お母さんに再度確認されて、お恥ずかしいです、と苦笑する。
泣いてしまったのにはもうひとつ理由が――実結先輩のことが好きだと白状させて間接的に振ってもらったこと、というのがあるけれど、そんなの、お母さんの前でも、もちろん百井くん本人の前でも言えるわけがない。


