当の百井くんは、そう言って、気恥ずかしそうに鼻の下を掻く。
……そういえば、そんな写真を撮った記憶がある。
父のあのアホな一件が起こる前--実質、わたしが最後に出展した、隣の市の数軒の写真館と共同で開いた小さな写真展での一枚だ。
そのときの写真展は、確か百井くんの家の最寄り駅にある商店街のカフェがスペースを提供してくれて。
ここまで連れてこられる間も、懐かしいなぁ……なんて思って横目で見て。
……って。
「えぇぇぇっ!?」
頭の中でパズルのピースがカチリとはまった瞬間、思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
あの写真が誰かの心に強く焼き付いていたこともそうだけれど、あまりに偶然すぎるつながりに、ただただ驚く声しか出ない。
よほど声が大きかったのか、そんなわたしに眉をしかめた百井くんは、うるせーとチッと舌打ちをすると、けれどすぐに表情を和らげる。
「ニナの中でもやっとつながったようだな。写真の説明書きに『momo』ってローマ字で撮影者の名前が書いてあってさ。オレ、一度でいいからその人に会って、ちゃんとお礼が言いたかったんだ。この写真を撮ってくれてありがとう、オレの手は今まで誰かを殴るためにしか使ってこなかったけど、これからはもっと別のことに――『momo』が写真を撮る〝手〟のように使うから、って。ずっとそう言いたくてたまんなかった」


