百井くんは続ける。
「ただ単純に〝ちから〟が欲しかったんだ。簡単に負けないためのちから、バカにされないためのちから、ひとりになった母さんを守れるだけのちから。一番手っ取り早かったのが、俗に言う暴力だった。本当はオレだって、そんなのダメだってわかってた。だけど、悔しいから。……うまく言えねーけど、そのときのオレには、そういう目に見えて相手に示せる〝ちから〟がないとやってらんなかったんだと思う」
「……そっか、そうだったんだ」
「おう」
いくらやめてほしいと訴えても聞く耳を持ってもらえず、それどころか、面白がられてますます行為がエスカレートしていく--。
程度の差はあれど、そんな経験にわたしも覚えがある。
中学のときの父の一件が、まさにそうだった。
あの男子のせいでどれだけわたしは……!
もうだいぶ前のことになるけど、思い返しただけで腹が立って、それを思うと、百井くんがケンカに走った気持ちもわかって。
中学時代の彼のことをとやかく言う気は、これといって起きなかった。
確かにケンカや暴力は褒められることじゃない。
だけど、そうやって人を傷つけてでも、大切な人や自分を守らなければ、百井くん自身がもっと傷つくことになっていたんだろうから。


