わずかに熱を帯びた声で言うと、百井くんはス……とスケッチブックをきれいな指でなぞる。
自分が触れられたわけでもないのにピクリと肩が震えてしまうのは、百井くんとの距離が息がかかりそうなほど近いせいだからだろうか。
変に意識してしまいそうになって、ひざの上に置いた手をきゅっと握って、なんとかやり過ごす。
そうしていると、ふと自分が滑稽に思えて、ついでに唇も噛みしめなければいけなくなった。
百井くんの仕草ひとつひとつにドキドキして。
勝手に舞い上がって、勝手に落ちて。
だから百井くんは、わたしのことなんて、これっぽっちも意識していないんだってば。
……ほんと、いちいちバカだな、わたし。
そんな中、わたしの胸中なんて知るよしもない百井くんは、スケッチブックに触れていた手を離すとベッドへ向かい、そこに深く腰かけた。
「さっきのお返しじゃないけど、今度はオレの話をニナに聞かせたい。どうしてニナがオレのヒーローなのか、ちゃんと話したほうがいいだろ」
すぐにスケッチブックを開いて〝ヒーロー〟の理由を説明してくれるものだとばかり思っていたから、そう言う百井くんに拍子抜けして、何度か目をぱちくりさせてしまう。


