その動揺から着地がうまく決まらず、それに気づいた百井くんに手を引いて体勢を立て直してもらう形になった。
「あっぶねーな。前見て走れよ」
「百井くんの足が速すぎるんでしょー」
「うるせー。短足」
「なによノッポ!」
またしてもいつものようにお世辞にも生産性があるとは言えない言い合いをしながら、今日は百井くんの背中に導かれるままに駅の方向へ足を走らせる。
ふたりとも、それぞれに自分の傘を差してはいても、走っているからあまり意味はなかった。
走っているうちに急に泣きたい気持ちになったわたしの思いを代弁するように、雨の滴がいくつも顔にかかっては横に流れていき、熱くなった目元にかかる。
百井くんがどうしてわたしを自分の家へ連れていこうとしているのか。
トラウマ話を聞いてからというもの、やけに生き生きとした顔をしているのか。
説明がないから、わかるわけもない。
でも、これは間違いなく一過性のものなのだろうということは、ある人の顔を思い浮かべれば、いやでもすぐにわかってしまうことだった。
だって、百井くんが好きなのは実結先輩だ。