わたしの手を強引に引くのは、わたしが想いを寄せている男の子。

誰かに見られでもしたらどう説明したらいいんだろうという危機感を孕みながらも、彼は力強くずんずん進む……。


見え方によっては、ヤンキーに連れ去られる哀れな女子に見えないこともないだろう。

でも今まさにわたしの心はときめきの真っ最中で、百井くんの広くて大きい背中以外には、なにも見えなくて。

ほかの誰になにをどう思われたって構わない、という大胆な気持ちさえ、芽生えはじめている。


〝わたし、百井くんが好きだよ〟――。


いつか、そう言いたくなる日が来るのかな。

恋に気づいた瞬間から断られると確定していても、今までの友だち関係を壊してでも、どうしても気持ちを伝えずにはいられなくなるような、そんな日が……。


外に出ると、校門へと伸びる年季の入ったアスファルトの窪みに大きな水溜まりができているのが目に入った。

しとしとと雨が降る中、百井くんに手を引かれたまま、それをふたりほぼ同時に飛び越える。

その瞬間、わたしの中で頑なに守ってきた境界線がぐにゃりと揺らいだような感覚がして。