いつから手が止まっていたのか、見るとパレットの上の絵の具が端のほうから乾いてきていて、せっかく絞り出したのに、ちょっとかわいそうだ。
雨模様でも今日は比較的明かりが取れているため、それくらいは見えるけれど、百井くんがなにを知っているのかは、相変わらず見えてこない。
「オレ帰るわ」
すると百井くんは、なにを思い立ったのか、突然の帰る宣言を繰り出してきた。
呆気に取られたわたしは反応さえできず、ただ口をぽかんと開けて急ピッチで帰り支度をはじめた百井くんを目で追うだけで精一杯だ。
目の前で、しかも唐突に意味不明な行動を取られると、人って動けなくなるものらしい。
いつもは手伝う片づけも、今日は見学だ。
と。
「なにしてる、ニナも帰るんだって」
「うん、まあそうなるけど……」
「オレの家に一緒に帰る」
「……はっ!? 百井くんの家に!? 一緒に帰る!?」
百井くんの口から、またしてもおかしな台詞が飛び出してきた。
こっちはまったく意味が飲み込めないから、いちいち区切って聞き返してしまう有り様だ。
……それにしても、なぜわたしまで百井くんの家に一緒に帰ることになるのだろうか。


