聞きたくもないのに勝手にしゃべってくる彼の話を聞かされたところによると、彼のお兄さんは高3――つまり、父が昨日撮影に行った高校の生徒で、今まさに卒業を迎えたホヤホヤ卒業生だということだった。
式が滞りなく終わり、さあ最後に卒業生全員で集合写真を撮りますよという段階になったとき、父がいそいそと担いできたカメラに「ん?」と違和感を覚えたらしい。
「兄貴、言ってたぜ。レンズにカバーが付いてるままだけど、いつ外すんだろうって思ったって。周りもだんだん気づいてきてさ、あのときの微妙な空気ったら無かったわ、だって。親父さん、気づかなかったのかね?」
「……っ」
あんのバカ親父っ‼
昨日、父からその話は散々聞かされたけれど、目の前でまた同じ話を聞かされると、込み上げる恥ずかしさはケタ違いだった。
みるみる顔に熱が集まり、それと同時に心臓が妙な早鐘を打ちはじめる。
今すぐここから逃げ出したいのに足が床に貼りついてしまったみたいに動かず、声すら出ない。
冗談で言うことはあった。
けれど、恥ずかしくて死ねると本気で思ったのは、このときが初めてだった。


