わたしは、そんな百井くんに気を取り直すようにして笑ってうなずくと、
「笑ってくれていいからね」
そう前置きをしてから、とりわけ人物写真だけは撮りたくない理由と、父がしでかしたバカな出来事との因果関係を話しはじめることにした。
*
あれは中学2年の終わり。
卒業シーズンに入ったばかりの、3月上旬、春先のことだった。
中学ではこれからだけれど、高校ではちらほらと卒業式が執り行われるようになってきた、そんな頃。
その日、高校の卒業式の写真を撮影に行った父が、現像の段階になっておかしなことに気がついた。
「これも、これも、なんで真っ黒でなにも写っていないんだ? なんなんだこれは。いったい……」
普段は母もわたしも、引退したおじいちゃんも滅多に入らない現像部屋へわたしたち3人を招いた父は、現像が終わったばかりの写真を何枚も机に並べて見せながら、狐につままれたような顔で言う。
そんな父に急かされるように3人同時に写真をのぞき込んだわたしたちも、けれど、実際にそれを目にしたところで父がわからないことをわかるわけもなく、一緒に首をかしげてしまった。


