「どうした、百ノ瀬」

「いや、安心したら腰が抜けちゃって」

「は?」


ああ、百井くんがやっと脳内で変換しなくてもわかる台詞を言ってくれた……。

今までの苦労が報われたような気がして、心配してくれたのだろう、近くまで来てくれた百井くんを見上げて、わたしは笑う。

襲われると勘違いして腰を抜かしたという事情が事情なだけに、けっして手放しで笑えることではないけれど、それでも百井くんから感情らしい感情がうかがえて、不思議なことに彼に対する恐怖心がすーっと消えていく。

失礼な話だけれど、ちゃんと血の通った人間なんだとわかったというか、冷徹非道と名高い百井くんにも他人を気遣う優しい心があったんだと思えたというか……。

なにはともあれ、これで安心だ。


「じゃあ、百ノ瀬は、今日は見学。これパス」

「ほわっ!? ……ぶっ!」


すると百井くんは、とたんに暴君に戻る。

こちらの体制も整わないうちに、わりと乱暴にブレザーを投げてよこされてしまい、わたしは思いっきり顔面に直撃を食らう。


「ちょっと百井くん、わたしの扱いひどくない!?」