「うん! 名字のせいもあって昔から好きでね。桃が好きだってことだけは、わたしの中でブレないわ」

「そういや、ニナの持ち物ってやたらと桃多いしな。シャーペンとかノートとか、最近は桃の香りもするし」

「あ、うん、夏場になってきたから、最低限のエチケットとして制汗スプレーをちょっとね。……え、もしかして匂いキツかったりする?」

「いや。家の匂いに似てるから、なんか落ち着く」

「……そっか、なら、いいや」


~~~、なんなのよもう……。

隣の席だからってこともあるだろうけど、細かいところまで見てもらっていることをサラリと言われて、なまじ返事に困るんですけど……。

持ち物に桃が多いこととか、百井くんを意識して桃の香りをさせているとか。

気づいてほしかったわけじゃないけど、気づいてくれていて、とてもうれしい。


きっとわたしは、こうやって百井くんの何気ない一言にどんどん浸食されていくんだろう。

密かに想う、なんていう自分に都合のいいやり方で初めての恋を楽しんでいながら、好きな人がいるのに対象外のわたしにまで優しいとか百井くんズルい……なんて考えが頭に浮かんで、そんな自分にほとほと呆れる。