「え〜、本日濃霧の影響で、約5分ほど遅れて運行しております。ご迷惑おかけしまして・・・」

「今日も、か・・・。」

列車は今日も平常運転。

埼玉から東京へ向かう列車は、ダイヤ通りに運行することはほぼない。

遅延証明書。埼玉県民の必須アイテムである。

僕は今日も、列車に揺られて埼玉を後にする。

はずだった。こいつに会うまでは。

「ねぇ、君埼玉の人だよね?」

電車の中で話しかけられることはよくあった。

おじいさん、おばあさん、酔っ払い。話しかけやすい顔なのか、孫がどうだ、兄ちゃん何やってる人なの、なんて日常茶飯事。

しかし、今話しかけて来たこいつは、いや、この人は、どう見ても綺麗な女性だ。

無性にドキドキしている僕は、応えるよりも、彼女に見とれていた。

「ねぇねぇ、埼玉県民だよね?」

「はぁ、そうっすけど・・・」

「よかった。実はあなたに頼みたいことがあるのよ。」

「はぁ・・・いや・・・え?」