「じゃあ、また明日会いましょうね」

「うん。バイバイ、玲」


玲は僕の家まで送ってくれて、僕は家の中に入る。


「ただいまー」


...うん、分かってるよ。
返事が帰ってこないことは、とっくに分かってる。

両親はむかーしむかしに僕を捨てちゃったらしくてね。
記憶なんてないけど。

このマンションの一室は、そんな孤児のために活動をしている団体さんが用意してくれた。
僕が学校を卒業するまで、学費も家賃も負担してくれるんだって。

優しい大人もいるものだね、僕の両親とは全然違う。

...そんな両親から生まれた僕も、多分最低に育ってんのかな。
カモちゃんに隠し事してるし、とっくに最低、かな。

...あぁ、もう...こんなこと考えてたら、ちょっと寂しくなる。

何年も独りでいたのに、たまに寂しくなるのは何でなんだろう。

もう、慣れっこのはずなのにね。

そう思っていると、電話が鳴った。

カモちゃんからだ...。


「もしもし」

「もしもし、私だけど」

「うん」

「そろそろ家に帰ってるかなーと思って」

「うん、正解」


僕がそう言うと、少し間が空いて、「ねぇ、遊びに行っていい?」とカモちゃんが言った。


「へ?なんで?」

「なんでって...ほら、晩御飯!どうせ伊月のことだから、放っといたらちゃんと食べないでしょ?」


あー...確かに。
昨日は、学校帰りに買ったシェイクだけで終わらせちゃったからなー。


「うん」

「...だから、待っててね。すぐに行くから!」


...多分、僕が寂しがってるのが分かったんだろうな。
カモちゃんは、僕の声だけで僕の気持ちを読み取っちゃうことがある。

やっぱ、カモちゃんには敵わない。