────「”海が笑顔で生きていてくれるなら、 またすぐに会えるよ ” 8年間その言葉だけ覚えて生きてきた。」────


ピピピッ──。
携帯のアラームが鳴った、
「う、あー…、眩しい……。」
カーテンからわずかに差し込む光が
顔に直射して目が覚めた。

妙に体が重い、ムクリ。状態起こして
携帯をぼんやりと眺める

”速報!! 今日転校生が来るってよ!”

クラスのSNSのグループは朝からこの話題で盛り上がってたらしく、
通知は100を超えていた。
確かにこの時期に転校生も珍しいもんかな、すっかり遅刻だが気にせず身支度することにした。

ドアを開けると曇り空で弱い雨が降る。
この程度なら傘ナシでイケるな
走って通学路を渡り学校に着いた

廊下にはもう誰もいなくて
全校生徒は教室でHRを受けてた。

また怒られんだろーなー……。
走りながら遅刻の言い訳を考えてた、
自分のクラスに着いてついいつもの癖で
勢い良くドアを開けた。

いつもなら真っ先に低血圧で不機嫌そうな
担任が目に入る……ハズだった。
しかし、今俺の目に真っ先に入ったのは

1人の女の子だった。

栗色の短い髪で背は低くて、瞳は茶色く、
片耳には蒼いピアスをしていた。

その瞬間、俺は胸が騒いだ。
恋愛感情って感じじゃなくてこう、
懐かしい?久しぶりな感じ。

この子の事は何も知らない。はずなのに
なぜか分からないけど惹きつけられる、
なぜかそばに行きたくなる、
この子の瞳にうつりたくなる、

考えるより体が動き俺を見つめる
女の子に近づいた、女の子は戸惑った顔でこちらを見つめている、

「ねえ。」

何を言おうとしてんだ、俺。

「あんた」

なんだよ

「どっかで会ったことあるよね?」

・・・・は?

いやいやいやいや、何言ってんの、俺。
ハッと我に帰って焦ってきた
めっちゃ固まってんじゃん、この子
ヤバイヤバイヤバイ。
どうしよ、この空気……

「おい。」

女の子の後ろからドスボイスを出す先生
がこっちを睨んでくる。
良かった、先生がはよ席につけと目で訴えくれたから急いで席につく。

隣からツレが
「おい、お前中々勇者だな(笑)」
「ホントホント、いくら遅刻してるからってあそこまでウケ狙うなんて(笑)」
近くの席の女子も話しかけてきた。

いや、ほんと俺もそう思うよ、
ほんと何してんの、俺。と、内心めっちゃくちゃ恥ずかしかったが
ははは、カッコイイだろ?(笑)と
テキトーに流した。

でもなんだろ、ホントにあの子
すごい気になる、これが噂の
転校生現象なんだろうか…………。

「へー、蒼井宇美ちゃんかー、可愛くね?」
隣のツレがすげーうるせー……
いや、まぁ、確かに可愛いけどさ
でもさ、そこじゃねーんだよ、俺が気にしてるのはさ。

「それとだな、」
ん?
先生の顔つきが変わった。

「蒼井は、声がでません。」

・・・・・・・・え?

「事故がキッカケで声がでません。」

・・・・・・・・は、そういえば
この子さっきから一言もしゃべってない

障害者とはまた違う部類の人間に、
クラスの奴らはどんな反応をすればいいのかわからず、沈黙が流れていた。

チャイムが鳴り、先生が教室を去ると、
一人の男子が呟いた、

「なぁ、あいつ、試してみようぜ。」

「は?試す?」
なに言ってるんだこいつはと思った。
「蒼井さん、だっけ?わざと後ろから大声出してホントに声が出ねーか確かめんだよ。」
バカの極みだ。いや、俺も全然人の事言えねーけどさ。

「やめとけって、どうなっても……。」
男子は聞く耳を持たずこそーと蒼井の真後ろに立ち、そして耳元で

「わっっっ!!!!!」

ビクッ!!と蒼井の肩が震えた。
おいおい、まじかよ。
でも蒼井は声を出す気配もなく、
ゆっくりと後ろを振り向いた。

怯えて少し体が震える蒼井が見えた
それを見てまわりの奴らは好奇心の目で
ニヤニヤしていた。

やめなよー。と言いながら笑っている女子
、こーゆー奴らを見ると女が嫌になる。
だから、

「ふざけんなよ。」

思わず臭いセリフが出てしまう。
普段からどちらかとゆーとしゃしゃり出る
俺だけど、いつもはなんとなく善人気取りで行動していた、でも、今は、
ただこの子に申し訳なくて、
ただこの子を守りたかった。

物分りの良いクラスの奴等は
「わるい、やり過ぎた。」
「ごめんなさい。」
自分の日頃の立場が役に立ったようだ。

クラスの奴らが謝り俺が自分の名前を教えると初めてにこーとはにかんだ。
穏やかに笑う蒼井は可愛らしかった。

懐かしさと穏やかさを感じた気がした。