───「君と出会ったこと自体が全てを
変えた根源なのかもしれないね。」───


「緊張しているか?」
朝のホームルーム前のチャイムが鳴り、
全校生徒は各教室でワイワイ待機していた
「声に出さなくても表情でわかるよ」
教室前の廊下で、私の顔を覗きながら
先生が軽く笑いながら話しかけてきた。

私は先生の顔を見ながら首を横にふった。
「そうか、お前は…強いな。」
強いって、どんな意味なんだろ…。
「でもな、ここにいる奴らの前では、
案外気楽でいた方が自然かもしれないぞ、
てゆーか、あいつらにそんなん通じねえかもな。」
歯を見せて笑う先生の言葉の意味は、
この時はまだ理解できなかった。

ガラッ
「うおーい、お前らいつまで喋ってんだよ」
先生がドアを開けて注意した後に、
生徒達はぞろぞろと席に着いたのが見えた

「なぁなぁ、せんせー。
今日てんこーせーくるんだろ?」
「男!?女!?」
「えー、イケメンがいいなー」
席に着いた生徒達は先生に言葉攻め

「んだよ、お前ら知ってんのか。
じゃあ無駄な前フリいらねーな、
よし、入ってこい。」

先生がちょいちょいと私をて招く
慎重に足を運んで教室に入った
さっきまで堂々とざわついてたクラスは
私が入ってきた途端ヒソヒソとざわつく

(女子やん)
(イケメンじゃなーい)
(ちっさ!)
(てかあの子茶髪じゃね!?)
(かわいーじゃん)

ヒソヒソと私の評価をし始めてるみたい
転校生の初日なんてこんなもんだろうと
理解はしてたけど、やっぱり、
この空気、嫌だな。

「んだよ、お前ら急に大人しくなったな。」
先生は空気を読めていないようだ
「あ。じゃあー自己紹介しまぁす
転校生のぉー……」

ガラッ!!!

「お!?ギリセーフ!?」
勢い良くドアを開けた音がして振り向くと
1人の男の子がぜーハーと息を切らして
立っていた。

私はびっくりして男の子を見つめていると
男の子も私を見てズンズンと近づいてきた
なに!?と少し怯えていると
真剣な目で

「あんた、どっかで会ったことあるよね?」

・・・・・・・・・え?
呆然としている私のうしろから

「…………おい。」
かなり低めの重たい声が聞こえた
「テメェ楠原ぁ、せっかく俺が転校生の紹介してるとこをぶち壊して朝からナンパするたぁいい度胸してるじゃねぇか。」
後ろで先生が黒いオーラで微笑んでいた

「うっわ!皆やばいて!
なんでか知らねぇけどわた先キレてる!」
男の子が慌ててみんなに注意したが、
「いやいや、お前のせいだから(笑)」
「今日も遅刻かよ、楠原(笑)」
皆笑いながらツッコんだ。

「は?こんな優秀な俺が怒られる?
フッ、んなわけ……」
「テメェだよ、ボケ!」
先生が本気でツッコんだ

その茶番らしき光景をみて
クラスがどっと笑いに包まれた。

さっきまで私が教室に入ってきた瞬間
別物が来たような重苦しい雰囲気は一気に
消しさった。

「いてーなー、もう。」
「はよ席つけや、アホ
転校生の立場がねーだろーが。」
「……あ。なんかごめんね?
後で体でオワビしてあ・げ・る……」

ゴンっ!!

先生の2回目のげんこつがとんだ。
あ。これは痛そうだな…と見ていた私
少し涙目になりながらブツブツと自分の席につく男の子。

さっきのは、一体なんだったんだろう。

「いやぁ、すまんな。
あんなやつもいるんだ、覚悟しといてくれ」
「ちょ!あんな奴って俺のことすか!?」
いや、当たり前だろ…。
ほかにだれがいるんだよ、と
心の中でつっこんだ。

「あー、もうお前すこし黙っとけ、
先に進まねーから。」
先生もだいぶイライラしてる
気持ちは分からなくもない
はーい…としぶしぶ言う事をきいてる

「よし、じゃあ全員揃ったところで自己紹介をしたいと思います。」
やっと本題に戻った

「名前は蒼井宇美さん、東京から家の事情でこちらに越して来ました。ちなみに蒼井の名前は漢字で書くとだな……」

(えー!東京だって!)
(都会人やん!)
(芸能人と会ったことあるんかな?)

予想してた通り、東京ってだけで
ものすごいざわめき、こーゆーのは(失礼だけど)田舎特有ってゆーのかな。

「あー……、それとだな。
ここからが本題なんだが……」
先生が重い口を開く

「蒼井は、声が出ません。
ここに来る前にちょっとした出来事があり
そのことがショックで蒼井は声が出ない状態になりました。」

あんなに騒いでたクラスがしんと静まった
「と言ってもな、声が出ないだけで耳も聞こえるし目も見えます。
君らと何ら変わりはありません。」
先生がすかさずフォロー?してくれた

キーンコーンカーンコーン……

朝のホームルーム終了の合図
「お?もうこんな時間か、よし。
蒼井はあの奥の席な。
といっても今日の放課後に席替えするけどな、まぁ。慣れだ、慣れ。」
先生はそう言い残して教室を後にした。

私を見つめる生徒たちと私を残して。