秋人はあれから私をずっと抱き締めていた。
私も特に何か言うでもなく好きにさせていた。


そこに、誰かが近付いてくる音がする。
確実にこの部屋に近付いている。

……待って、これってもしかしてだけど。


「秋人、離れて」

「は、なんで」

「誰か来たじゃん」

「別に良くない?」

「よくない」


ぐぐっと力を入れて引き離そうとするが、秋人の力に敵うわけがない。
そうこうしているうちに襖がすーっと開いた。


「……」


もちろんそこに立っているのは瞬だった。
白いTシャツと、デニム。なんてことないコーディネートなのに、似合っている。

こっちを見て少しだけ目を見開くと、何も言わずにそのまま襖を閉めた。


「おいっ!」


思わず私は声を出していた。
その影は遠ざかろうとしている。ちょっと待て。帰るな。

瞬はいつも通り漫画を読みに来たのかもしれない。
なんでもいいけれど、待ってくれ。


「秋人!?ねえ、ちょっと離して」

「嫌です」

「ああもう」


私が秋人に切れかけた時、また襖が開いてずんずんと瞬が中へ入ると、同時に。

ドカッと思い切り秋人を蹴り飛ばした。


急すぎて言葉が出なかった。
私の顔のすぐ横にある瞬の長い足。

瞬は秋人をじっと見降ろす。
すぐに起き上がった秋人が瞬を睨みつけた。