奴は、いつも決まった時間に教室へとやってくる。


7時半ジャスト。HR開始まで30分という教室に人の多い時間。
教室の後ろ側の扉が横にスライドし、入ってきたのは……。


憎き残念系男子、優(ゆう)だ。
栗色のふわふわの髪にスタイル整った身体と顔立ち。足長いなおい。


「あ、おはよう坂本さん……って寝癖ついてるよ?」

教室に入るとまっすぐ私の元へとやってきてそんなことを言いつつ頭を撫でる優。朝にシャワーを浴びたのだろうかほのかに清潔感のある石鹸の香りが私の鼻をくすぐる。

ここまで聞けば“なんて羨ましい”なんて思いが頭をよぎるだろうが違う。そうじゃない。


「そう言えば、坂本さん昨日のプリティぷりんせすはーと☆見た?神作画だったよね!!」


きた。しかもこれは長くなりそうだ……。
心なしか周りに座るクラスメイトが離れていくような気がする。

「いやぁ、とくにあの最後のパンチラシーンは最高だった!もう思わず屈んだね!」

いや、聞いてないし。


「あのね、優?私は別にアニメに興味は……」

「坂本さん!やっぱりコスプレしようよ!絶対似合うから」

「死んでもいや」

「えー……」


私が即答で断ると子犬のような顔でこちらを見てくる。

あぁ、不覚にも可愛いとか思ってしまった……。こうなると弱い、ついついこう言ってしまう。


「すこしだけだからね……」


私が言うやいなや、優は私の事をいきなり抱きしめてきて


「やったぁ!坂本さん大好き!」


なんて言うのだ……。ほんと恐ろしい。

そもそも、優に懐かれたのには理由がある。