「ねねっ見て見て! 新作のリップ〜
この色かわいくない?」
彼女が嬉しそうに高級そうなポーチから取り出したのは、新発売したばかりのリップクリーム。
普通のものと何が違うのか私にはまるっきり分からないけど、周りにいた子達は口々にそのリップを褒めた。
「わっ! すごく可愛いっ」
「いーなぁ。美香ってばいつも新作のものばっか持ち歩いてるよねぇ」
「あたしそんな高級品買ってもらえないよ〜!」
感情のこもっていないその声たちに満足したように微笑む美香は自慢げにそのリップを唇に塗って見せた。
重たい体を持ち上げて、私も美香の所へ行く。
「美香ちゃんによく似合うよ、それ。」
私もみんなに負けず劣らずの笑顔でそう
言うと、美香ちゃんは貸してあげると言って、私にそのリップを持たせた。
「月さぁ、せっかく可愛いんだし
化粧もしてないなんてもったいな〜い。
そんなんじゃあ千歳(ちとせ)くんも振り向いてくれないよ?」
「…、」
ね?と言って可愛く首を傾げる美香ちゃんの瞳はどこか試すようで、試されているようで、私は目を逸らした。
それでもなお、美香ちゃんの視線をビシビシ感じる。
「月使わないなら、あたし使いたい!」
「えっ、うちもー!」
数秒の沈黙後、一人の子がそう言って私の手元にあるリップクリームをとった。
美香ちゃんの視線は逸らされ、リップクリームの方へ。
「ね、美香ちゃんいい?」
「うん、いいよ。貸してあげる」

