あるいは、僕は狂いつつあったのです。期待、恐怖、絶望、困惑、期待、恐怖、期待、絶望、困惑、が、僕の頭をごしゃごしゃにしました。夜が来るのを恐れました。もっと正確には、自分の部屋で一人になる事を恐れました。今となっては再び獣を檻にこめるすべはありません。精々僕にできる事は、部屋にいる時間を最小にする事です。日中彼女の面影を慕って彷徨する。博物館に入ったり、皇居の回りを歩いたり、当ても無く電車に乗ったり。夜が来れば眠らぬ夜を明かしに厭わしい部屋に帰り、鍵を掛け、彼女の幻影に怯えながら、自分の立てる物音に普通でない注意を凝らすのです。こんな夜を七たびも迎え得るものでしょうか?