僕の親愛なる叔父さん、その夜の事をここに告白するのに垂れた[こうべ]頭を以てするのです。十五才の冬、あの[い]凍てつく夜の血塗られた闘いで閉じ込めることに成功して以来、長い間厳しき鞭もて脅しつけ飼い馴らして来た野獣;[かつ]曾て僕の若い精神と肉体とが相剋の限りを尽くした末、上天に輝いた精神の勝利が、青春に授与した侵しがたい勲章と言うべき ─ そしてあのライターと共に今や一つの記念物に成り下がった ─ 野獣;その飼い馴らされた記念物が揺り起こされたのでした。初めは断続的に、何とも言えず悲しげな啼き声が聞こえていましたが、それはやがて等間隔な規則的な不吉な[うな]唸りに変わり、そのものは臭い息を、耐えがたい獣の臭いを、吐き散らし辺りに充満させ、空気を重くしました。[だいたいこつ]大腿骨に這い上がってくる怪しい地響きと共に伝わる等間隔で規則的な唸りは、もはやライターの如きは玩具同然の虚仮威しだと言いたげです。そのものの息は一段と臭く、空気は一層重く、それの唸りは僕の腰部をぴくりぴくりと引きつらせます。勢いにのってそれは[たけ]哮り立ち、異様な苛立たしさで[おり]檻の中を行きつ戻りつします。そしてその夜、[よ]克く復た勝つを得なかったのです。獣は曾て見た事が無いほど荒れ狂いました。一度はその強迫に屈伏しておとなしくさせても ─ いな、寧ろ一度屈伏してしまったが為にと言うべきでしょう ─ いずれまた勝ち誇ったように起き上がって挑んで来ます。檻を放たれた獣は容易にはその獣性を静められる事を嫌いました。久しく捕らわれの身になって牧草を食むようにさせられていたそれは、[よひとよ]夜一夜、五度六度と肉を割き骨を噛み砕き生き血をすすり、[こら]堪えに堪えてきた空腹を満たすものの貪り方で、唾液[ほとばし]迸る牙を深く僕の臓腑にもぐりこませました。その都度僕の手は汚れに染まってゆきました。僕の手、前日の夕刻、滋子の手を握った手です!