教室に着くと、すでに来ていた杏子が「おはよう」と声をかけてくれた。
「うん……おはよう」
堪えていた涙を、瞬きを繰り返して乾かす。
こんなところで泣かない。
自分の席へは向かわず、そのまま杏子の近くに行く。
まだ授業も始まっていないというのに、杏子は朝から難しそうな参考書を手にしていた。
さすが成績優秀な杏子だなぁ。
感心しちゃう。
「どうしたの? 何かあった?」
杏子は参考書からわたしに視線を移す。
隠したってムダなことを、わたしは良く知っている。
杏子はサバサバしてるけど、人のことを良く見てるから。
「うん、ちょっとね……」
「泣いたでしょ? 目が赤いよ」
うっ。
「泣きそうにはなったけど……泣いてないよ」
ちゃんと、ガマンしたから。
パタッと参考書を閉じると、杏子は立ち上がってわたしの腕を引っ張った。