ただそれだけのこと……。
大石さんは何事もないように淡々と言ったけど、わたしにはそうは聞こえなかった。
きっと今も、大石さんはお父さんのことを引きずっているんだ。
「だからあたしは、男なんて信用してないの。利用するだけ利用して、こっちから捨ててやる。男なんて、この世から消えちゃえばいいのに」
固く握り締めた大石さんの拳がプルプル震えている。
それほどまでに、お父さんのことが許せないんだろう。
だからって、矛先を他の人に向けるのはどうかと思う。
「どう? これで満足でしょ? シラケちゃったから今日は帰る。じゃあね」
大石さんはわたしの顔を見ることなく、繁華街の中を駅の方に向かって歩き出した。