1 
日も暮れた都会の喧騒の中を
制服のまま一人美和は歩いていた。

 今しがた不意に降り出した雨が美和の肩を冷たく濡らしている。

人々は急に降り出した篠付く雨に空を恨めしげに見上げ、
それぞれが避難先を求め、思い思いの方向へと逃げ惑う。

美和はそんな人たちをよそに、ただうつろな目で
一人足取りもおぼつかず歩いていた。

そんな時三十台の一人の男性が美和に傘を差しかけてきた。
 
「あれ君、どうかしたの?びしょ濡れじゃん」
美和は何も答えない。

「さあ、傘んなか入りなよ。風邪ひくよ」
男は美和を傘の中に入れると肩に手を回し歩き始めた。

 美和は抵抗するでもなく一緒に歩き始めた。

2
数日前のこと、美和の父は帰ってこなかった。
父の勤める女子高のある生徒もその日帰宅せず
行方が知れない。

学校側も父に連絡を取ろうとしたが取れないという。

心配したその女生徒の両親が警察に連絡し、
警官を伴って美和の自宅を訪れた。

「奥さん、ご主人の居場所ごぞんじないですか」

女生徒の母親がなかば半狂乱に

「お願いです。恵理子を返してください。まだ将来のある子なんです。仮にも先生がそんなことしていいんですか。何考えてるんですか。分別のある大人がすることですか。恥をしりなさい。この人でなし」