「……佑介?」
 少しだけ気になったので、友里香は佑介に呼びかけてみた。
 それなのに、佑介は友里香の言葉に反応しない。紙で顔を隠しているため、友里香には佑介がどんな表情を浮かべているのか、わからない。
 「どうしたの?佑介」
 友里香は椅子から立ち、佑介の椅子付近まで接近し、佑介の表情を確かめる。
 「……?」
 そこにいた佑介は、瞳に光がなく、無表情の佑介だった。
 「……佑介っ!?」
 こんな佑介、見たことない。そう思って、友里香は佑介の身体を左右に揺らした。
 「ちょ……佑介っ!?どうしたのよ?」
 その時、佑介の瞳に光は戻ってきた。
 「……友里香?どうしたんだよ。いきなり……」
 「はぁ?それはこっちのセリフでしょっ!?いきなり誰かに暗示でも掛けられたのかと思ったわ。心配して損した」
 「おれ……何か変だったか?」
 「え?」
 突然、変な問いが返ってきたので、友里香は思わず言葉を濁らせる。
 瞳に光がなく、表情が無かったこと。あんな佑介を、友里香は見たこともなかったこと。
 佑介のことなのに、どうして友里香に問う?
 「……どうして、そんなことを聞くの?」
 「変なのは友里香なんじゃねえのか?別におれは変わったことなんてしてないし」
 「え……、そんなわけがないじゃないのっ!わたし、あんな佑介を見たこともなかったわ!佑介の瞳に光はなくて、表情なんて何もなかった!!さっきの佑介はいったい何だったのよ!?」
 「おれ……そんなの、知らないぜ?」
 「え?」
 話の辻褄(つじつま)が全く合わない。
 友里香は確かに見た。最初に眉を顰め、そのあとは紙で顔を隠されたので知らないが、後で確かめてみたら、そこには確かに友里香のしらない佑介がいた。
 誰かに暗示でも掛けられたかのように、瞳に光の欠片も感じられず、表情は無かった。友里香が身体を揺らさなかったら、今でもあの状態が続いていたに違いない。
 それなのに、佑介はそのことを否定した。
 佑介のことなのに。それなのに、否定する原因は1つだけ考えられた。
 それは、佑介が知らない所で誰かによって操られている。
 それしか、友里香には考えられなかった。