駅に着いたアスカと一也が、改札を通り3番線ホームに下りると、そこにはKJが立っていた。帰りは同じ方向の電車に乗るので不思議はないが、アスカにとっては好都合だった。
 さっきの“借り”を返さずにはいられない。
 このままでは寝られそうにもない。

 「KJ。さっきはヒドイことを言ってくれたわね。私のどこがサルなのよ。インチキしてジャンケンに勝ってるってだけで、イバった口は利かないでねっ!」
 アスカの攻撃はストレートだった。

 「ああ、うん。ごめんね」
 KJの受けは素直だった。

 ≪えっ? なに? いまのなに?≫
 全くの別人‥‥。いや、“別人”というならば、アスカとのジャンケン・ゲイムでのKJこそが別人だったのだが、あの、人をバカにするような口調も態度も消えていた。

 ≪なに? いまさらなに?≫

 アスカは次の言葉を失っていたが、われに返るとKJに言いよった。

 「謝るっていう気があるならジャンケンのトリックを教えなさいよ。負けないなんてぜったいにヘンよ」

 アスカの声を聞いているのかいないのか。
 KJの表情は異次元を見ている‥‥と、アスカの目には映った。
 そういえば、彼を包む空気感も、どこかおかしい。
 ≪なに? なんなの??≫

 どうしていいのか分らなくなったアスカに、KJはゆっくりと話しかけた。

 「ジャンケンで勝つのはトリックでも何でもないんだ。勝てるんだよ‥‥。
 勝つ方法を教えるのはかまわないけど、そうだなあ‥‥。アスカには、あそこに立っている二人の関係が分る?」

 そういってKJが視線を送った先には、距離にして10mほど離れた場所には、二人して並んでいる男女の姿があった。
 ≪あの二人の関係? 分かるわけないでしょ。それに、それとジャンケンで勝つ方法って話が別でしょ? なにがいいたいワケ?≫

 アスカは黙ったまま、男と女の背中を見つめるしかなかった。