恋愛ドクター“KJ”

 シンプルかつ素早く結果が出せ、なおかつ、年齢にも体力にも関係なく公平に勝負できる。
 それがジャンケンのよさだ。
 そのため、二人で勝負をすれば、それぞれが勝つ確率は50%だ。
 もちろん、多少のズレはある。が、一方の10連敗はありえない。
 
 「ねえ、一也」
 アスカは素直に、いや、興味に引かれて一也に声を掛けていた。

 「さっき叫んでた、ジャンケンで10連敗って何の話なの?」
 誰だって確かめずにはいられない。
 「えーっ。聞いてたの? ハズいなぁ」
 一也は苦笑いしながら答えた。

 「あれだけ大きな声を出しておいて“ハズい”ってなによ。
 それより10連敗って何なの?」
 アスカが、改めて一也を問い正してみると‥‥。

 「10連敗って10連敗だよ。10連敗知らないの? 言葉知らない?」
 トボケているのか天然なのか、一也の答えは答えになっていなかった。

 「バッカじゃないの。そんなこと分るわよ。
 聞いてるのは、ジャンケンで10連敗なんてないでしょってことよ。
 わかる?」
 アスカの返答は明快で鋭かった。

 「ああ、そのことか。KJってさ、ジャンケンの天才なんだよ。誰とジャンケンしても負けないんだ。
 勝率は97%なんだってさ。
 だから、いつか勝ちたくって勝負してるんだけど、ぜんぜん勝てなくて。きょうで10連敗だよ‥‥」

 勝率97%‥‥。

 淡々と語る一也だが、その口から出た数値は常識外だった。
 ≪そんな、ありえないっ!
 ジャンケンって、五分五分でしょ。 
 ぜったいにムリよ。
 私の聞き間違い??≫

 “勝率97%”を理解しようとするアスカだが、一也の次の一言は、完全に彼女を混乱させた。