恋愛ドクター“KJ”

 ハイキングに最適の山々。
 デイキャンプに人気の渓流。
 そんな自然の中を走りぬけた電車は飯能駅に着いた。
 ここで健一はスクールバスに乗りかえる。

 「おはよう!」

 クラスメイトの金森一也が声をかけてきた。そして、
 「KJ。きょうもお昼は勝負だぞ。もう負けないからなっ!」
 と、元気よく話を続けた。

 “KJ”というのは健一のニックネイムなのだが、なぜ“KJ”と呼ばれるのかは誰も知らない。
 思い返せば中学1年生のころから、すでに“KJ”と呼ばれていた。
 ハーフでもなければ日本人離れした顔つきでもないので、なぜ、そんなニックネイムになったのか?
 不思議でもある。

 KJは、身長170cm、体重50kgの細身の体型だ。
 笑顔は優しく、人から好かれそうな、ごく普通の男の子だった。

 「勝負? うん、いいけど」
 KJは短く答えた。
 どうやら、一也とKJの間では、その“勝負”とやらは頻繁に行われているらしい。

 「そうそう、昨日さ、モンスターハンター買ったよ。スゲーおもしれーよ」
 そういった一也は、ごく普通の高校生の顔になっていた。
 「あれいいよね。こんどwiiでも発売されるよね」
 KJも同じだ。

 程なく――― 。
 スクールバスが山間部に建てられた学校へ着くと、生徒たちは教室へと流れていった。