センターマイクの君へ(仮)


 毎日テレビに映っている芸人さんの数は驚くほど多い。どの芸人も楽しそうに笑いをとっていた。ルイはそれだけと見てたから、まさかこんな顔を芸人がするんだと驚いた。

 街に出ればいろんな所に芸人が写っている宣伝ポスターがある。あの人たちは手の中にいるんだ…。
 
「一人より、もっとたくさんの人を笑顔にしたい。そう思ってたのに、俺はダレ一人だって笑わせられなかった。…向いてないのかもな」

 トリの言葉にルイは自然と涙が零れた。

 そんなことない…そんなこと…絶対ない!


「私はトリは面白いと思うよ!まだそれを認めてくれる人はいないのかもしれない…でも、始めから認められるもんじゃないでしょ?お兄ちゃんだって、なかなか認められなかった。何度も紙千切って「俺には向いてないんだ」って叫んでた。でも、その時からトリはお兄ちゃんを作家として認めてたでしょ?私は、トリは面白いって思うし、芸人に向いてるって思う。だって、トリが来てからいっぱい笑ってるもん」

 息をすることを忘れるくらいルイは必死にトリにそう訴えた。でもトリは軽く微笑むとこう言った。

「ルイちゃんが笑っているのは、プライベートの俺で…芸人としての俺には笑ったことないでしょ?」