―――二週間前。

迷いたどり着いた弓道場に先輩は居た。

ポニーテールをなびかせながら。


「すげぇ…綺麗…」

思わず口から漏れた言葉だった。


「ふー、最後ぶれちゃったな」

そう呟きながら先輩は振り返り出入り口に歩いて来た。

「やっべ!」

思わず隠れてしまう。
なにもしていないのだが、何故か。

が、入り口付近に隠れる物はなく、外に出てきた先輩が見えた。

「わっ!!ビックリした!」

「あ、す、すいません!」

「あ、ううん、大丈夫、ごめんね大きな声出して、ちょっと待っててね」


先輩はそう言って矢を回収して戻って来た。


「1年生だよね、どうしたの?
もしかして入部希望?」

「いえ、少し見学でもって」

「なるほど!
まあ外じゃなんだし、中入ったら?」

「え?いいんですか?」

「いいんじゃない?
先生いないし、というか今日部活ないし」

先輩笑いながら弓道場に入った。

「それじゃ…」

少し緊張しつつ弓道場に足を踏み入れる。
藁の匂いに古い家屋の匂い。
独特な雰囲気を感じた。

「あははは、そんなジロジロ見てもなんもないよ
座ったら?」

「あ、はい」

矢を拭く先輩に言われるがまま畳の上に座った。

「今日は先生いないしホントに見学だけになっちゃうけど大丈夫?
明日なら男の先輩来るけど」

「大丈夫です、どういう感じなのかってまだわかってないんで」

「そっか、じゃあ私黙々とやってるけどいい?」

「はい!」

先輩はちょっと照れ気味に弓を引く位置より大分手前に座り瞼を閉じた。


静かな秒数。


先輩の呼吸が聞こえた。


瞼を開いた先輩は別人だった。



スラリと立ち上がると摺り足で前に。
横を向き足を開く。
矢を置き、的を少し見る。
4本の内1本をグローブのような物で掴むと弦の太い部分に羽のある部分をはめた。

一呼吸置く。

弓を引く一連の動作が始まった。
呼吸と共に動くその動作は、一つ一つの区切りを見せるが、流れるような体運び見せた。

あんなに大きな弓がしなっているのにも関わらず、先輩の右腕には力を感じさせないほど緩やかだった。

か細い腕は震えなどなく、まるで石像のように止まった。
力を感じない、固さを感じない、だが石像のようにぶれない。
不思議な状態だった。


長いようで短い秒間。


カンッ!!

弦が戻る音…


パンッ!!

真っ直ぐ飛んだ矢は的を居抜き、その音は耳の中に余韻を残した。