「あの、大丈夫ですか!?」

勇気を出して、軽く背中を揺すりながら声を掛けると、小さなうめき声が聞こえてきた。

あ、よかった、生きてる。

「こんなところにいたら、風邪引いちゃいますよ?」

「……お……」

「お?」

「……おなか、すいた……」

は!?

お腹、空いた?

私が彼の言葉に反応するよりも早く、彼のお腹の音が静かな廊下に鳴り響いた。




「あの、これよかったら、どうぞ」

カバンから、バイトの前に食べようと思っていたパンと野菜ジュースを取り出す。

「……いいの?」

「いや、私アナタ程お腹空いてないんで」

そこで初めて、彼と目が合った。

少し茶色がかった髪の毛はくるくると爆発していて。

眼鏡の下からのぞく目の下には大きなクマ。

色白の肌に点々としている無精ひげ。

「お勉強、頑張ってらしたんですか?」

コクン、と私の言葉に軽くうなずいた彼は、

「じゃあ、お言葉に甘えて、いただきます」

目の前で両手を合わせて、ボロボロの彼が私のパンと野菜ジュースを口にした。