「わ、私、彼氏とかいないし……」

好きなのは、今目の前にいるアナタなんですけどね。

とは言えず、思わず俯く。

「……そう、なんだ」

まるで独り言のような長谷部くんの声が、俯いた頭の上に降り注いだ。

「は、長谷部くんは? 彼女とかいないの?」

突然の私の質問に、面食らった表情の長谷部くん。

今の流れからなら不自然な質問じゃないよね?

何気なく発したけど、内心、心臓がバクバクしている。

「僕は……」

一瞬、困ったような表情を見せた後。

寂しそうに、つぶやいた。




「彼女は作らないよ」




彼女は作らない。

いないじゃなくて?

「長谷部くん、それってどういう……?」




ブー……ブー……




カバンの中から長谷部くんのケイタイのバイブ音が静かに響く。

「ちょっとごめんね」

図書館内は携帯電話使用禁止だから、静かに館内から出て行く。

そんな長谷部くんを追うような形で、本の貸し出し手続きを終えた私も、図書館を出た。




「うん。ごめんね。陽向くんに説明して、ちょっと抜けられないか相談してみるから」

電話を切った長谷部くんは、少し困った顔をしていた。

「困ってるようだけど、何かあったの?」

「いや、大丈夫だよ」

「でも、長谷部くんの表情、大丈夫には見えないよ。私じゃ頼りないかも知れないけど、もしよかったら話してもらえないかな」

長谷部くんを助けたい。

その想いを伝えると、長谷部くんは少し考えた後、言葉を紡ぎだした。

「藍ちゃんがね、今日外出する用事があるんだけど」

「うん……」

「本当はちぃちゃんが付き添ってくれるはずだったんだけど、体調を崩しちゃって。でも、僕も今日は用事があって難しいんだ」