クロの呼びかけにも応えず、私はその場から駆け足で立ち去った。



苦しい。

すごく、胸が苦しい。

そして私は気付いてしまった。




こんなにも胸が苦しくなるくらい。

私は長谷部くんのことが好きになっていたんだと。




見ないようにするつもりだった。

だって、あんな王子様みたいな人を好きになるだなんて。

叶わぬ夢を見るようなものだもの。

単なる憧れ、かっこいい芸能人に憧れているようなもの。

そうやって、いつも自分の胸に言い聞かせてきたのに。




でも、実際に長谷部くんと美空さんの並ぶ姿を見た時に。

私は気付いてしまったんだ。

あんなキレイな人をライバルにするだなんて。




「私ってば、バカだぁ」




言い聞かせるように小さくつぶやくと。

ホロリ。

左眼から一滴、涙がこぼれた……。