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「なんか最近機嫌いいな、真白」
「そう? そんなことは、ちょっとあるけど」
語尾にハートマークでも付きそうだな、とクロが横で苦笑いをする。
今日はクロに誘われて、街へ映画を観に来ていた。
何でも、バイト先の先輩から映画のチケットをもらったらしい。
映画の後、どこかでお茶でもしようかと、映画館の入っているショッピングモールをウロウロしていると、不意にクロが口を開いた。
「そういえばさ、真白は王子とかぐや姫の話知ってる?」
「何言ってんの。かぐや姫に王子様は出てこないでしょ。和と洋じゃん」
「……そうじゃなくて。長谷部の彼女の話」
「あー。それ?」
ケラケラと笑いだす私を不審げな目で見つめるクロ。
「そのかぐや姫って、長谷部くんの双子の妹のことだよ」
不審げだったクロの目が、驚きの色に変わる。
「この間聞いたんだー。長谷部くんの妹、藍ちゃんっていうんだけどね。藍ちゃんって長谷部くんが宇宙に詳しいように、古典文学に秀でてるらしくてさ。竹取物語の研究論文を絶賛されたかことにもちなんで、大学の学生からこっそり『かぐや姫』って呼ばれてるらしいよ」
私も最近朱音に教えてもらったことだけど。
長谷部くんが女の子に人気があると同じく、藍ちゃんの美少女っぷりもとても有名で。
うちの男子学生にも密かに人気があるらしい。
ただ、当の本人は何の興味もないらしく。
「彼氏なんていないよー。私には作れないよ」
と、この間会った時に言ってたっけ。


