「蒼くん、遅いよお」

「ごめん。陽向くんに用事頼まれちゃって」

「また陽向くん?」

「ホントにごめんってば」




可愛らしく頬を膨らませる彼女に手を合わせる長谷部くん。

キレイな黒髪に、大きな二重の瞳。

微笑みあうふたりの姿は、なんだかとってもお似合いだ。

もしかしたらこの女の子が、噂の彼女なのかも知れない……。

そう思うと胸が少しだけチクリ、と痛む。

すっごくすっごく会いたかった人なのに。

今、やっと会えたのに、胸が苦しい。




「でも大丈夫。この人が助けてくれたから」

女の子の言葉に長谷部くんがこちらを向く。

「宇高さん……!?」

驚きの声を上げる長谷部くんに、頭を軽く下げる。

「え、ふたりは知り合い?」

「うん、前話したでしょ。廊下で倒れてる僕を助けてくれた人だよ」

「そうだったんだあ」

大きな瞳がより一層輝き、彼女の可愛さが増した。

これは同じ女性でもキュンとくる可愛さだなあ。




「さっきは本当にありがとうございます。助かりました」

ペコリ、と頭を下げる彼女に、いやいや……と手を振る。

「そんな。私は何も。結局長谷部くんが来てくれたから助かったようなもんだし」

「そんなことないよ。宇高さんが通りかかってくれなかったらどうなっていたことか。……この間から兄妹揃って宇高さんには助けられてばっかりだね」

「イヤイヤ、兄妹揃ってだなんて……え!? 兄妹!?」

ピタっと動きの止まる私を見て、ふたりが軽く微笑んだ。

「申し遅れました。双子の妹の藍です。宇高さんのことは蒼くんから聞いてました」

「あ、宇高真白です。初めまして……」

「藍ちゃんは隣のS女子大にいるんだよ。今日も僕のお弁当を持ってきてくれたんだ」

「そうなの。蒼くんはこっちが管理しないと、ご飯もちゃんと食べないんだから」

冷ややかな目で長谷部くんを見つめる藍ちゃん。

確かにふたりを見比べてみると、よく似ている。

前に長谷部くんが言っていたように、髪の毛の色や質は似ていないけれど、顔のパーツは……特に大きなくりっとした瞳なんかはそっくりだ。