ユウウコララマハイル

ガチャンとドアの開く音がして振り返る。
「おかえりー」と間の抜けた声でナツミはそれに応えた。


「どこから声がするのかと思ったら、俺の部屋か。なにその顔、難しそうな顔して」


そう言いつつも古沢の視線は腕を組んで立っているナツミの先を進んで、壁に向かっている。
正確には壁にもたれかかるように置かれている、ぬいぐるみだ。


「お前、どこからそれを」


古沢は目を最大限に見開いたと思ったら、脱兎のごとく脚立を取りに行って天袋を開けた。
そこから出てきたのは雑多に宝物が入っている衣装ケース。
古沢が大事にしている古文書もここに入っていて、できるならそのときに天使の羽根がないことに気づいて欲しかったと、内心気落ちしている。


「古沢がつける気配がないから、この子なら似合うと思って」


というのは嘘だ。
本当は返し忘れただけだ。
気落ちした心がささくれて、嫌味に聞えているに違いない。


「でもやっぱり、古沢がつけたほうが、似合うね」
「俺は一度もつけたことねえよ」
「それは知ってる」


古沢がこぶしに力を溜めているのがわかった。
気持ちを無理に押さえ込んでいる。
大人になったなぁと、冷静に感心してしまう。


古沢が怒るのはもっともなことで。
プライバシーの一線を超えてしまった、ナツミがわるい。
ここで素直にごめんなさいと謝り、ホロリ涙なんか流したら、古沢は戸惑って許してくれるだろう。
計算を込めてするそれは、そこら辺のどうでもいい男、例えば上司みたいな人間なら容易く使えるのに、古沢にはできない。