「……あれ、じゃあ結局浮気はしてなかったのね?」
「うん。前に凛花が言ってた女性っていうのは、うちの姉貴だと思う」
「お姉、さん……?」
「引越し手伝ってもらったんだよね」と笑う望の言葉から、初めて望にお姉さんがいたことを知る。
なんだ、浮気相手じゃなかった……あれ、ってことは、あの指輪は。
「じゃあ、あの指輪は……?」
「もちろん凛花へのものだよ。ていうか内側に名前彫ってあったんだけど……見てなかったんだねぇ」
「え!?そうなの!?」
思えば、ケースを開けて眺めることは時折あっても、指輪を取り出したことはない。
内側に、名前……なんて知っていれば、もっと早く話ができたかもしれないのに。
「そっか、そうだったんだ……」
脱力したように笑う私に、へへ、と笑って、望は私のまっさらな薬指をそっとなでる。
そっか、あの指輪はこの薬指のために用意されたものだったんだ。
彼が、私のために選んでくれたもの。
望の抱いた、誓いの証。
「……ねぇ、望」
「ん?」
「あの指輪の意味を、教えて」
教えて。
あの指輪を、あなたがどんな気持ちで選んだのか。
どんな気持ちでしまいこんで、どんな気持ちで、あの部屋に置き去りにしたのか。
自分自身がいなくなろうと、ひとつだけ残したそのこころ。
「俺と、結婚してください」
まっすぐに目を見て伝えた言葉に、私は大きく頷く。
「はいっ……」
あなたがいれば、その心がここにあれば、それだけでなにもこわくない。
だから手をとって、ともに生きていこう。
どんなに情けない姿も、弱くてかっこわるいところも、互いに全部見せ合って。
ずっと、ずっと。
そんな永遠を誓い合うように、雲ひとつない空の下で交わしたキスは、永く永く、どこまでも続く未来を示しているように、感じられた。