「……佐々木、記事って?」
若干、蚊帳(かや)の外に居るような気がする黒斗が隣にいる玲二に聞く。
「うん。洋介、さ……ほら、腕が無いよね?」
遠慮がちに洋介を指さすが、洋介は有理との会話に夢中で気がついていない。
「洋介は腕が無いけど、足の指を器用に使って絵を描くことが出来るんだ。洋介が足で描いた絵がコンクールで受賞して、一躍話題になったんだよ」
「そうそう。その記事、フランスでも載っててさ。洋介、頑張ってるなって思って会いたくなった」
有理はそう言うと、洋介に向けていた視線を玲二に移した。
「ところで玲二は? 何か描いてないの?」
「えっ」
突然、話題を自分にふられて玲二が動揺する。
その隣で話を聞いていた黒斗は、美術室で玲二が言っていた言葉を思い出し、首を傾げた。
「お前、絵心無いとか言ってなかったか?」
「あの、その……」
「ウソ、ウソ! こいつ、絵めっちゃ上手いんだぜ!」
口ごもる玲二の代わりに、有理が答えるが、その言葉を聞いた玲二の顔から血の気がサーッと引いていった。
「……有理、玲二はもう描くのをやめたんだ」
俯きながら洋介が言うと、有理は驚いたように何度も瞬いた。
「何でだよ玲二! 勿体(もったい)ないことをするなよ!」
眉間にシワを寄せ、声を荒げる有理。
玲二は肩を竦め、彼の言葉を黙って聞くだけだ。
「お前には才能があるんだ! このまま埋もれさせていいのか!? なあ、れい…」
「うるさいな!! オレはもう描かないって決めたんだ、ほっといてよ!!」
ビリビリ、と鼓膜に響く程の怒声が発され、その場にいる全員がビクリと肩を震わせた。
気まずい沈黙の中で、玲二の荒い呼吸音だけが響き渡る。
「ご…ごめん。つい、カッとしちゃって」
玲二は申し訳なさそうに頭を下げると、黒斗の袖口を掴んだ。
「オレ達、用事があるから…じゃあ、またね!」
それだけ言うと玲二は黒斗を引っ張って、その場を立ち去った。
後に残された洋介と有理は気まずそうに顔を合わせる。
「俺、ヤバいこと言っちゃった?」
「……玲二は、まだあの時のことを…」
「まだ引きずってるのか!? もう終わったことだろ!?」
ゆるゆると洋介は首を振り、俯いた。
「僕らにとっては“終わったこと”なのかもしれない。でも、玲二にはまだ続いてるんだ……」
