辺りを見回した黒斗は、つまらなそうに溜め息を吐き、踵を返す。
「あっ、ま、待って!」
呼び止められて振り向くと、尻餅をついたままの少年が黒斗を見つめていた。
「あの、助けてくれて、ありがとう! この間も、ご迷惑おかけしました」
「この間?」
身に覚えのないことを言われ、腕を組んで暫し思考する。
「覚えてませんか? コンビニで、タマゴ割っちゃった客ですけど」
「タマゴ……ああ」
合点がいったように黒斗はポン、と手を叩き少年を見下ろした。
「サイフを落として小銭をバラまいた挙げ句、突き飛ばされてタマゴを割った奴か」
黒斗がバイト中にレジを打ち、モタモタと小銭を出して、林に突き飛ばされた客と容姿が一致する。
「はい! いやー、まさか同じ学校だったとはー」
ニコニコと笑う少年。
「……で、何でチンピラに絡まれていたんだ?」
「えと、その………」
口ごもる少年よりも先に黒斗が憶測を口にする。
「どうせボンヤリと歩いていたらチンピラにぶつかって、連れ込まれたんだろ」
「そ、そーです! 何で分かったんですか!?」
「見るからにボーッとしていて頼りない奴だからな」
ハッキリと言われた印象に、少年は苦笑する。
「じゃあ、俺は行く。お前も急がないと遅刻するぞ」
「あ、あのー……」
立ち去ろうとする黒斗に、すがるような視線を送る少年。
「腰が抜けて立てません……どーしましょう……」
のんびりとした口調で言い放たれた言葉に、黒斗は深い溜め息を吐くのだった。