デスサイズ



一言も会話を交わすことなく、2人は鈴の自宅に辿り着いた。

「……送ってくれておおきにな」

こちらへと振り向いた鈴の目は、赤く腫れていた。

「なあクロちゃん……」

光が消え失せ、ただ絶望と悲しみだけが渦巻いている瞳で黒斗を見つめる。

「……ウチ、大げさなんかな…ペットが死んだくらいで悲しみすぎやよな……?」

空色の綺麗な瞳が揺れ、また涙が零れ落ちる。

「でもな…笑うかもしれへんけどな………ウチにとって、リンは本当に特別な存在やったんや…大切な……家族やったんや……!」

涙が頬を伝い、それがポタポタと地面に吸い込まれていく。


「ハハッ……やっぱウチって、おかしいかなあ……」
自嘲気味に笑う鈴の瞳を、真っ直ぐ見つめながら黒斗は口を開いた。

「お前の言うことを笑いながら嘲(あざけ)る者もいれば、同調して一緒に涙を流す者もいるだろう。おかしいか、おかしくないかは人によって変わる」

黙ったまま鈴は黒斗の言葉を待つ。

「……俺はペットの死を悼み、心から涙を流せるお前は純粋で、優しすぎると思う」

「………………」
何も言わず、立ち尽くしたままの鈴に背を向けて、黒斗はその場を立ち去った。









「橘、可愛そうにね」

宛もなく歩いていた黒斗の耳に、聞き覚えのある声が届き立ち止まる。

「……またお前か」

振り向いた先に居たのは、予想通りの人物だった。
その刹那、黒斗の表情が不機嫌なものに変わる。


「学校はどうしたんだ?」
「風邪ひいたから休んだ。今、病院の帰り」
「へえ……」

淡々と答える大神に、黒斗は苛立ちを募らせていく。

「橘の猫、殺されたらしいな。可愛そうに。早く死神が犯人を殺していれば、こんなことにはならなかったのに」
聞き捨てならない言葉に黒斗が食いかかった。


「前も言ったが、お前は死神が罪人だけを襲っていると、本気で思ってるのか?」

コクリと頷く大神。

「実際、こないだの江角だって犯罪者だった」
「……偶然だろ」

黒斗の言葉に、大神は薄ら笑いを浮かべた。

「偶然じゃない。やっぱり死神は罪人だけを襲ってると僕は思ってるよ。全ての罪人は、死神に殺されればいいん…」
言い終える前に、黒斗が大神の胸ぐらを掴んだ。


真っ赤な瞳に怒りの炎を灯らせ、大神を睨みつける。


「全ての罪人は死神に殺されるべきだと? この世界は人間の世界だ。曲がりなりにも“神”である死神が無闇に関与していい場所じゃない」

胸ぐらを掴む手に、更に力が入る。

「罪を犯した人間は、人間に裁かれる。それが、本来の正しい道理だ」

そう言うと、黒斗は乱暴に大神の胸ぐらから手を離した。

乱れた服装を大神は無表情のまま直す。


「血の気が多いな、月影は。赤い瞳も合間って、死神みたいだ」
「……赤い瞳はお前も同じだろうが」
「…………」

無言のまま大神は立ち去っていった。



(人間のくせに、何を考えてるのか解らない……不気味な奴だ)



チッ、と舌打ちをすると黒斗も踵を返して、その場を去った。