平凡な男子高校生、月影 黒斗(つきかげ くろと)の一日は騒音から始まる。



ガチャン ガシャン ドンガラガッシャン



眠っていた彼を起こす、耳を塞ぎたくなるような喧しい音。


毎度の事なので特に気にしないが、たまには静かに目覚めたいものである。

彼は溜め息を吐きながらベッドから起き上がると、学校へ向かう為の身支度を整え始めた。

青いブレザーの制服へ着替え、寝癖がついている黒髪に軽くクシを通し、鏡で身だしなみを確認して部屋を出る。



階段を降りてダイニングルームへと向かえば案の定、見慣れた人物の後ろ姿が目に入った。



「おはよーさん、朝ご飯はもう出来とるで」

綺麗で長い髪を三つ編みで1つにまとめた少女が、黒斗の存在に気付いて笑顔で振り向く。


「おはよーさんじゃない……お前は俺の奥さんか。いらないと言っているのに毎朝、飯作りに来やがって」


三つ編みの少女――橘 鈴(たちばな すず)は黒斗と同じ如月高校(きさらぎこうこう)に通う同級生である。


彼女は非常にお世話やきというかお節介な性格で、1年前に黒斗が如月高校に転校してきたばかりの時もやたらと話しかけてきて、黒斗が両親と離れて一人暮らしをしていると知った時から、こうして毎日朝ごはんを作りに来るようになったのだ。


正直、黒斗は彼女をうっとうしく感じる時がある。

だが鈴は根は悪い人間ではなく、こうして世話を焼いているのも純粋な善意からなので無下にも出来ず、仕方なく黒斗は彼女のやりたいようにさせている。