「ただいまー」
鈴が自宅に帰ってきたのは、夕暮れ時。
我ながらよく働いたものだと思う。
明日も捜査を頑張ろうと気合いを入れて、自室へと入った。
「ただいまリン! ええ子にしとったか?」
返事はない。
「リン?」
いつも鈴の声がすれば鳴きながら飛びついてくる筈なのに、今日は何の反応もなかった。
違う部屋で寝てるんかな、と思い立ち、リンの名を呼びながら家中を探し回るが姿は全く見当たらない。
「な、なんでや…ちゃんと戸締まりして、リンが出られへんようにしたのに……」
真っ青な顔で立ち尽くす鈴。
(ど、どないしよう…探さな…!)
慌てて玄関から飛び出し、誰かに協力を仰ごうと携帯の電話帳を開く。
「……いや、アカン。もう時間も遅いし、迷惑かけられへん…」
真っ先にカーソルを合わせた【クロちゃん】の文字を見つめながらポツリと呟く。
携帯をポケットに仕舞い、顔を上げると丁度帰ってきた母親の珠美と目が合った。
「あら、帰ってたんか」
「うん…でも、またちょっと出てくるわ」
鈴の言葉を聞いて、珠美が驚いたように瞬(まばた)いた。
「今から!? もう遅いし、やめときや」
「でも…リンが居なくなってもうたんや…」
「リンが?」
「そや、ちゃんと戸締まりもしたのに…」
そこまで聞いた珠美は、考え込むような素振りをした後、思い当たることがあったのか「あっ」と声をあげた。
「もしかして、ウチが帰った時…」
「えっ!? おかん、家に帰ってたんか!?」
驚く鈴に珠美は頷き、話を続ける。
「忘れもん取りに帰ってな。多分、玄関を開け閉めした時に出ていったんやと思うわ」
のほほんとした様子で事情を話す珠美とは逆に、鈴は焦燥感(しょうそうかん)に駆られた表情を浮かべた。
「そんな!! なら、やっぱり探しに行かな!」
今にも飛び出しそうな鈴の肩を、珠美が掴んで制止する。
「慌てへんでも大丈夫やろ。猫は気ままやからな、好きな時に出かけて、好きな時に帰るんよ。ウチが子供の頃に飼ってた猫も1週間くらい経ってから、ひょっこり戻ってきたんやで」
諭すような珠美の言葉を聞いて、鈴の勢いが失われていく。
「明日、学校やろ? 風呂入って、ご飯食べて、ゆっくり休みや」
「……はい」
本当は納得していなかったが、母親に心配をかける訳にもいかず、渋々家の中に戻っていった。
「……リン……」
ベッドに横たわりながら、姿を消したリンを思い浮かべる。
(大丈夫…やよな? 明日になったら、無事で戻ってくるよな?)
半ば自分に言い聞かせるようにして、睡眠をとるべく鈴は瞼(まぶた)を閉じるのだった。
