一方、その頃…
「アカン、アカン。ウチとしたことがケータイを忘れてまうなんて」
パート先に向かっていた鈴の母親、珠美(たまみ)は忘れ物を思いだし、大急ぎで自宅に戻ってきていた。
手早く玄関の鍵を開け、充電器に差し込んだままの携帯の元に走る。
「ふう…充電したまま、忘れてまうこと多いな~。ブドウ糖が足らへんのかしら」
何気ない独り言をブツブツと呟きながら携帯を鞄に仕舞い、玄関に鍵をかけて慌ててパート先へと向かった。
この時、珠美は慌てるあまり気づかなかった。
珠美が玄関を開けた、ほんの一瞬の間にリンが外へ飛び出したことに。
「はい、おおきにー!」
人の良さそうな中年の主婦に頭を下げ、鈴はにこやかな表情を浮かべた。
「犯人らしき人物は、中年男性で大きな鞄を持っていた……っと」
先程の主婦から聞いた有益な情報を、さっそくメモ帳に書き記す。
最初に犠牲となった猫の飼い主の近所を中心に、死骸が発見される前に不審な人物が居なかったかという聞き込みをした所、早朝に大きな鞄を持った中年男性が、早足でゴミ捨て場から立ち去る場面を目撃したらしい。
ようやく手に入れた情報に、鈴の表情が思わず綻(ほころ)んだ。
「日も暮れてきたし、今日の捜査はここまでにしよか。リンも待っとるしな!」
可愛い愛猫の姿を思い、鈴はスキップでもしそうな足取りで帰路につくのだった。
