───殺される。



そう直感した青年は、首を掴む死神の手を引き剥がそうとするも、その手は石像のようにピクリとも動かない。



「やめっ、やめてくれ……! たかが、おやじ狩りだろ!? 人を殺した訳でもあるまいし!! こんな事で殺されるとか、ありえないだろっ!?」

「確かにお前は直接的に人を殺してはいない。だが最初にお前が金を強奪した相手……ソイツはお前に金を奪われた事によって借金を返済する最後のチャンスを失い、家族と共に心中を図った。

そして先程、お前が襲った男が持っていた金は、血の滲むような努力の末にやっと手に入った難病の妻の手術費用。

直接 手を下していないとは言え、お前が彼らを死に追いやったも同然……仮に彼らに そんな事情が無かったとしても、強奪なんて どう見ても立派な犯罪だろう?」


「……わ、わ、分かったよ! 今 奪った金は返す、もう親父狩りだって しない! だから頼む許して……」

「……今さら遅い。相応の罰は受けてもらう」


半ばパニック状態となった少年は喉が潰れそうな程の大声で叫ぶが、死神から返ってきたのは あくまでも冷ややかで無慈悲な反応だった。



「いやだあああぁぁ!! 死にたくない、死にたくない!! 誰か、た、助けてええええっ!!」


泣きながら命乞いをする少年に向かって大鎌は降り下ろされ、肉が裂ける生々しい音と共に鮮血が壁に飛び散った。


*****



「くぅ……」

傷口を押さえながら、宛もなく歩く中年男性。


警察に被害届を出しても金が戻ってくる確率など半分にも満たない。

あらゆる者に頭を下げ、あらゆる物を売りさばいて ようやく手に入れた金だったというのに――奪われてしまった。

何もかも終わってしまった。



「すまない…………すまない……愛子(あいこ)……!」

涙を流しながら男性は膝をつき、愛する妻へと謝罪の言葉を口にする。



その時――



男性の目の前に、茶色い何かがポトリと落ちてきた。



「こ、これは……!?」

まさかと思い、男性が落ちてきた何かを手に取ると、ソレは先程奪われた財布だった。

急いで中身を確認すると、紙幣は1枚たりとも減っておらず奪われた時の状態そのままだった。



──どうして?


──理由は解らないが、金は戻ってきた。


──これで妻は助かる。


──きっと、これは神助けだ。



「……ありがとうございます」


空を見上げて感謝の言葉を呟く男性。



そんな彼の様子を、死神がビルの上から見つめていた――