デスサイズ



「何が“ついていけない”だ。どいつもこいつも、甘ったれおって!」

林自身に自覚は無いが、林の企業運営はかなりのスパルタであり、ブラックである。

従業員への長時間労働、残業は当たり前で、時には社員教育と称して暴力を奮うこともある。

そして、いかなる理由があろうとも突然の休暇は認められない。

家族が危篤(きとく)だから実家に帰らせてほしい、急用が入ったから休ませてほしい、そういった事情があっても林は「やかましい」と一蹴し、勤務を強制するのだ。

従業員達も他に働き口が無い者が多く、唯一の職場を失う訳にはいかないので我慢を重ねてきた。

だが、募りに募った不満はここに来て爆発して、その結果が今の辞職の嵐である。


残念なことに、林は己に原因があるのだと全く解っておらず、従業員達のワガママだと思ってしまっている。



ピリリリリ



電話の着信音が鳴り響き、直ぐに林が通話に出る。

「もしもし…」

『もしもし、菊三かい?』

聞こえてきた穏やかな老婆の声に、林はチッと苛立ちを露に舌打ちをした。

『菊三や…お願いだから帰っておいで。少し…ほんの少しだけでいいの、お父さん、最後に一目でいいからあなたの顔を見たいって…』
「うるせえな!! 親父なんかどうなったって知るかよ!! 迷惑かけないうちに、さっさとくたばれと言っておけ!!」
『何てことを言うの! あなた、お父さんにどれだけ可愛がってもらったと…』
「ガキの頃のことだろうが!! もう二度とかけてくんじゃねえぞ!!」

涙声で叫ぶ母親を無視して電話を切り、そのまま携帯の電源も切った。


「くそったれが!!」

頭をガリガリと掻きむしり、テーブルに顔を突っ伏す。